お侍様 小劇場 extra

    “ささやかな幸せ” 〜寵猫抄より
 


        



 おむすびにケーキも食べてお腹もぽんぽこ。にゃにゃ〜っvvとご満悦なまま、くああと欠伸をこぼすに至り、どうやらお昼寝に入りたいらしき小さな仔猫。おやおやと苦笑をし、可愛いものですよねとの意を込めた視線を七郎次が向けたれば。その先にあったのは…同意とばかりの苦笑をして下さるお顔じゃあなくて。

 「…勘兵衛様?」
 「ZZZZZZZZ……。」

 ひじ掛けへ腕をかけての頬杖をついたそのまま、一足先に瞼を降ろしておいでの御主だったりし。あれあれ、お疲れだったのかしら。さすがに体格が違うので、自分一人じゃ寝室までと運んでもゆけぬ。微妙に体が斜めになっておいでなの、立って行ってのそおと押し込み、ソファーの上へと横たわらせて。うたた寝ならば此処でもいっかと、ブランケット代わりに使っている毛布、浅い灰色のセーターにくるまれた胸元へとかけて差し上げて。

 「………。///////」

 狡いなあとついつい思うのは、本人はただ寝入っておいでなだけなのに、そのお顔のまた何とも男臭くも思慮深く見えることか。そして、何てまた…精悍さや重厚さをまとっての、蠱惑に満ちておいでなことかというところ。あごに蓄えたお髭がさもお似合いな、彫が深いはもともとの風貌ということもあるけれど。年経て積んだ、若しくは刻んだ、錯綜やら苦渋やら、耐えたり忍んだりしもしたその奥深い蓄積が成したものでもあるからで。無心でおわすのに、それでもどこか、深い思慮思想の尋へと想い沈ませておいでに見えて。ああほら、視線が外せなくなる。眠っておいでの間も、こちらの意識を捕らえて離さぬ、何て罪な人だろか。………と、

 「…お。」

 いつの間に近づいていたものか、足元からぴょこたんと跳ねた小さな陰が、そのまま毛布をよじ登ってっての胸元へ落ち着いて。坊やの姿だととんだ重しに見えなくもないけれど、

 “…まあ、実体は仔猫なんだし。”

 ちらと見やったサイドボード。そのガラス扉へと映り込む陰は、確かに…モヘアの毛糸玉を思わすほどの、小さな小さな存在だから。さして重くもないでしょうよと、退けるつもりはないままに。マシュマロか羽二重餅かというよな ふくふくした仔猫の頬へ、触れるかどうかというほどの間近まで近づけた指の先にて、輪郭なぞって慈しんでいた七郎次だったが、

 「……。////////」

 どういうものか。そのお顔のすぐ真下、たいそう近間にある、もうお一方の寝顔も気になってしようがない。そういや、こんな明るいところでまじまじ見るのは久し振りじゃあなかったか。厳格そうな雄々しいお顔は、だが、無防備になっていると思えば…妙に視線が惹かれてやまぬ対象でもあって。それでなくとも好いたらしいと思っているお相手だもの、じっとじぃっと見つめていたくもなろうというもの。ソファーの傍らに座り込んだまま、すうすうと安らかな寝息を刻むお顔を見つめて……幾刻か。

 「    、…。///////」

 ふと胸へ沸いた妙な想いに、ふるると肩が震えかけたものの。誰もいないのは勿論のこと、勘兵衛自身も眠り込んでいる。えっとえっと、どうしよか。いいよな、いいよね、このくらい。そおと手が伸び、そのまま髪へ。洗った後の手当てにと、乾かすのは手伝うものの、それ以外では触れたことってあんまりなかった。癖があるのでまとまらず、それでと伸ばしておいでの濃色の髪は、俗に言う蓬髪という手合い、あんまりきれいな見栄えのそれではないのだけれど。あ、案外とふかふかしてるし暖ったかいやと、指先に掬って愛おしむ。そういや勘兵衛様も、わたしの髪を梳くのがお好きだ。するんとしているばっかりで面白みのない髪だのにな。煙草をやめられてから手持ち無沙汰になってるからかな…なんてこと。取り留めなく思っておいでの恋女房、誰か何か言ってやって、言ってやってよ もうと、筆者が間もなくキレかかってたそんな折、
(おいおい)

  「……おや?」

 ふと。視線を上げれば、リビングの一角に陽を受けて光ったものがあり。少しほど陰っていたからか、今の今まで気づけなかったそれは、

 「私の、デジカメ?」

 PCの傍らへいつも置いてたはずだったけれどと、整理棚を見やると。忽然とというのが相応しいほどのあっけらかんと、プリンタや何やの陰になってることもなくの、どこにもおいでじゃあない様子。何でまたと立って行っての拾い上げれば、隅っこに下がっていたストラップがくりんと何重か、よじれての三つ編みのようになっているので、はは〜んと来た心当たりが閃いて。

 “…ああ、そっか。”

 薄型携帯電話に匹敵するほど薄いボディの機器を手に、ふふ〜んと何やら慮みて、微苦笑している七郎次。そういや先日、向こうのお国のキュウゾウくんが、こんな小さなもので写真が撮れるなんてと不思議がっていたのを思い出す。

 『何か映ってるぞ、ここに。』
 『ああ、それはね、映したいものが見えてる状態。
  そいで、此処をこうして…ほら。』
 『わ、カシャッてゆった。』
 『そう。
  そしたら、裏側に映してた画面がそのまま撮影出来ているので。
  後はこうして確認も出来て…。』

 飲み込みのいい子だったので、仕組みの詳細までは判らずとも、操作の仕方は何となくながらすぐにも覚えていたようだった。

 “仔猫の手じゃあ掴めぬものだが。”

 ストラップのところを咥えるか手に通すかしたらしく。日頃は単なる飾り扱いにしていたそれが、微妙によじれて毛羽立っている。昔のカメラなら、久蔵よりも重いかも知れずで、引き摺ったとて持ってくなんて無理な話だったろが。キャラメルの箱くらいという大きさのこれなら、何とか運べはしただろうから。

 “向こうでキュウゾウくんの姿でも撮ったのかしらね。”

 おもちゃじゃないと言っとくべきか。でも、壊したようでもないようだしなと、その場に座り込むと、電源を入れてあちこち操作し、特に傷んでもないようでと確かめて。そのついでに…収録されてる画像を確かめ始めて……。


  「……っ!!」


 何枚目かの画像、それも、最初は何ということもないまま、くすすと和やかに目許細めて眺めていたはずが。はっと一点を食い入るように見据えると、次にはキョロキョロと辺りを見回し。ソファーにて眠る家人を、じぃと…困ったように見やっていたのも束の間のこと。

 「…か、勘兵衛様、起きて下さいませ。」

 行儀は悪かったが座ったままのところからの四つん這い、そのほうが早いとばたばた歩み寄り、辿り着いたるソファーの縁を鷲掴みにし、そこに眠る御主の肩を揺すぶった。

 「起きて下さいませ、勘兵衛様、起きて。」

 急な振動に、まずは久蔵の方が先に反応した。にゃっと驚いてか顔を上げ、身を丸めて乗っかっていた足場がゆらんと揺れたのにその身が釣られ、そのまま転げ落ちかかったものだから。咄嗟に爪立てしがみついたのが、勘兵衛の二の腕と、胸倉のシャツの合わせ目、肌が見えてたその引っ掛かりへ。はっしとばかりの掴まりようは、子供の姿のままでさえ、結構な衝撃を伝えたはずで。

 「……。」
 「勘兵衛様、狸寝入りはこの際、責めたりしませんから。」

 仔猫の幼い爪は結構痛い。咄嗟に飛び出したそれなら尚のこと、しかも落ちないようにという、体重かけての一撃だけに、がりりと引っ掻いた跡も赤くて…これを何とも思わぬなんて、却って不自然極まりないというもので。そうか、さてはさっきから、実は寝てたわけじゃあなかったな、勘兵衛様。
(苦笑) ほらほらと、揺すぶるのをやめない七郎次に根負けし、苦笑半分、何だどうしたと身を起こした壮年殿。お顔の真ん前へとかざされた、デジカメの液晶モニター部分を、じっと見やって…数分とかからぬうちに、はっとして気がついたところはなかなかの冴えだったかも。あああ、筆者が絵描きさんだったなら、これがその一枚ですと その図を描いて皆様へもお見せ出来たのだけれども。


  なので、此処で問題です。
(こらこら)


 久蔵くんがカンナ村へと持ち出したデジカメの中、どうやら新しい画像が増えていたらしいのですが。シチさんが、そして勘兵衛様さえ驚かせたその画像とは、一体、何のどんなそれだったのでしょうか?

  @こちらにおわす勘兵衛様や七郎次さんと瓜二つな人たちが、
   キュウゾウくんと一緒に写っていた。

  A今時では映画村に行くか、
   世界遺産指定の農家にでも行かねばお目にかかれぬ、
   そりゃあ立派な囲炉裏があるお宅に感動した。

  Bどこまでも続くようにしか見えぬ草原の雄大さに、
   日本の源風景を見たような気がして、
   もしかして、こちらの日本とどこかで、
   地続きな土地ではなかろうかという、思い当たりがあった。

  Cそんなこんななお堅い感慨なんぞ、
   あっと言う間にかっ飛ばして。

   自分たちにはたいそう見慣れた、金の綿毛を頭に頂く小さな和子が、
   にゃは〜と嬉しそうに微笑っている姿が、
   ネコ耳の少年の隣りに、しっかと写り込んでいた。


  さあ、どれだ?
(くすすvv)





   〜Fine〜  09.11.08.〜11.10.


  *最初は、
   うたた寝する勘兵衛様にこそり“ちう”するシチさんというネタと、
   仔猫の爪は案外と痛いというネタを、
   (すんません、こっちは後日リベンジさせてください。)
   書いてみようと思ったお話だったのですが。

   ちょっとびっくりな進展、というか、新発見を一つ。
   唐突に思いついたので、そっちが優先となってしまいましてvv

   カンナ村の皆様には、もれなく坊やの姿で見えてる久蔵くんなので。
   あちらで撮ったらこういうことにならないかと思いましてねvv
   さあどうする、島田せんせい ご夫婦っ!
(笑)

めーるふぉーむvv めるふぉ 置きましたvv

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